農地の売買は簡単にはできない!売却する方法や条件、手続きの流れを確認

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2020.12.31

不動産のうち建物は経年劣化がありますが、土地は基本的に劣化という概念が無く、安定した資産価値を持つ財産として考えられています。

ただし同じ土地であっても宅地と農地では全く事情が異なり、農地は様々な制限がかけられ売買取引も自由に行うことは許されません。

自分の土地であるのに自由な取引が制限される農地の所有者は、売買取引にあたって苦労する可能性が高いです。

本章では農地売買に係る制限や売却するための方法、手続きの流れなどを全体的に確認していきますので、ぜひ参考になさってください。

農地の売買が制限されるのはなぜ?

宅地であれば、不要になった時に売却することは基本的に自由にできます。

農地で自由な取引ができないのは、国策として農地が保護されているからです。

国土が狭い日本は国民の食糧を確保することが難しいというハンデがあり、日本国単独で国民の食糧を安定的に供給することは難しいのが実情です。

他国との取引が問題なくできている間は輸入により食料の調達ができますが、これは他国頼みということですので、国際情勢など様々な事情で輸入ができない状況になれば国民の食糧はひっ迫します。

農林水産省によれば、令和元年度の食糧自給率(カロリーベース総合食料自給率)は約38%と、半分を大きく下回る結果となっています。
参考:https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/011.html

直近では新型コロナの影響で建設資材の納入に大幅な遅れが出ているなどのニュースも聞きますから、どんな事情で輸入がストップするか分かりません。

国民の食糧確保は国が責任を負うべき問題であり、国の施策として農地を確保する必要があるのです。

通常の土地であれば、買い手が購入した後は法令に違反しない限りにおいて基本的に自由に利活用が可能です。

農地で同じルールとしてしまうと、売買取引後に農地を潰して他の目的に使用することも制限されません。

そうすると農地の確保が難しくなることが考えられますから、簡単には農地売買ができないように規制をかけているのです。

売却する方法は二通りある

ただ、農地の売買が一切許されないわけではありません。

最低限の農地は残しつつも、それ以外の農地については売買できるように整備されています。

売買可能な農地についても完全に市場取引に任せるのではなく、行政による許可制が敷かれているので、許可を取ったうえでなければ取引ができないようにしています。

農地の売買について許可を出す主体は取引対象農地によって変わります。

基本的には市区町村に設置されている農業委員会ですが、規模が大きくなると都道府県知事や農林水産大臣の許可が必要になることもあります。

許可を取らずに当事者間で行った売買取引は法律上無効となるため、農地売買の取引は通常の土地取引とは手順も異なります。

取り引きの手順については後の項に任せるとして、ここでは農地を売却するための2つの方法について確認します。

一つは、農地を農地のまま売買する方法です。

この場合は農地を潰すわけではないので問題なさそうに思えますが、購入された後に農地として利用されることが確保されるかが問題です。

そのため定められた基準をクリアしなければ許可を受けることができないようになっています。

農地を農地のまま売る方法については、農地法3条にルールが定められていることから、「3条許可」などと呼ばれることもあります。

二つ目は農地以外の目的に転用して売却する方法です。

例えば農地を宅地に変更(転用)して売買することができますが、この場合農地を潰すことになるので、より高いハードルをクリアしなければならず、許可を受ける難度が高まります。

農地を他の目的に転用して売る方法については農地法5条にルールが定められていることから、「5条許可」などと呼ばれることもあります。

それでは上記2つの売買方法について、それぞれの条件を確認していきましょう。

農地のまま売る(3条許可)の場合の条件は?

農地を農地のまま売る場合、地目変更は必要ないのでハードルは低いと思われるかもしれませんが、実際はそうではありません。

農地として維持されることが条件になるので、買い手は基本的に農家に限られます。

大規模経営を手掛ける農家の知り合いがいれば買ってもらえるかもしれませんが、小規模農家はどこも後継者不足などで経営は縮小していく方向にあるので、買ってくれる相手が見つかりにくいのが難点です。

購入相手がいれば、後は行政の許可を取れれば売ることができます。

農地のまま売る際の許可基準をまとめると以下のようになります。

①全部耕作要件

購入者は、今回の取引で購入する農地だけでなく、現状で所有する農地や借りている農地についてもすべて有効に利用できなければいけません。

例えば現状で耕作を放棄している農地が他にある場合はこの条件を満たすことはできません。

②農作業常時従事要件

購入者またはその世帯員が農業に従事できることという条件で、概ね年間150日以上の稼働が求められます。

③下限面積要件

購入する農地を含めて農業を行う農地が下限面積以上になることが必要です。

下限面積は自治体によって異なります。

④地域との調和要件

売買対象となる農地の周辺地域における農地利用に悪影響がないことが求められます。

この取引によって周辺農地の効率的な利用が妨げられるなどの事情を認める場合は許可が出ません。

近年は経営の効率化を目指して集団経営を促進する動きがありますが、今回の取引でこれが分断されるような場合は許可がでません。

他にも、他の農地の水利確保に影響が出る場合や、無農薬栽培を行う農地に影響が出そうな時なども許可を取ることは難しくなるでしょう。

農地を転用する(5条許可)の場合の許可基準は?

農地を他の目的に転用して売る場合、購入層は農家に限られないことになるので、宅地を欲しがっている人などに向けても訴求が可能になります。

買い手が多く現れてくれることが期待できますが、農地を潰すわけですから許可を得るためのハードルは高くなります。

5条許可の場合、大きく立地基準と一般基準の二つの基準が用意されています。

順番としては、まずは立地基準をクリアしたうえで、さらに一般基準もクリアしなければいけません。

立地基準とは農地が存するエリア的な規制で、基本的に市街地に近い農地ほど転用はしやすくなり、逆に市街地から離れて山間部に近くなるほど転用が難しくなります。

人口が多いエリアに近いほど土地としての利便性を考慮され、山間部に近い場合は農地としての保護を優先する姿勢が見て取れます。

立地基準は以下のように農地の種類ごとに規制の強度が変わるようになっています。

①農用地区域内農地(農業振興地域内の農用地)

「青地」と呼ばれることもありますが、この地域の農地は最も規制が厳しく、原則として許可を得ることはできません。

②甲種農地

市街化調整区域(開発が制限される区域で郊外地に多い)に存する農地で、特に営農に適した農地です。

このタイプも原則として転用は不許可となりますが、農業用の施設を建設するための土地に転用するなどの場合は例外的に許可が出ることもあります。

③第1種農地

すでに集団的に存在している農地や、土地改良事業などの公共投資の対象となった農地です。

このタイプも原則不許可ですが、市街地に設置することが難しい施設を建てるなどで一定の合理性を認める場合には許可をもらえることもあります。

④第2種農地

市街化が見込まれる区域(人口が増えそうな地域)に存している農地や、市街地に近接した小規模の農地などが該当します。

このタイプの場合、農地の代替性が問題になります。

もし取引を考えている農地でなく、他の土地で売買の目的を達成できる場合は許可をとることができません。

他の土地ではなく、取引を考えている農地を潰して利用しなければならない理由を十分に説明できれば許可を取ることが可能です。

⑤第3種農地

市街地の区域内にある農地や、市街地化の傾向が著しい区域内にある農地です。

この場合は原則として許可が出ます。

上記の立地基準をクリアできれば、次に一般基準をクリアできるかです。

一般基準では以下のような点が考慮されます。

①確実に利用目的が達成されるか

例えば転用に必要な資金は十分に確保されているか、利害関係者の反対がないか、他の許認可が必要な事情があれば、当該許認可を取れる確実性はあるか、などが考慮されます。

②周辺の農業に影響がないか

土砂の流出や農業用の排水施設の機能に影響を与える可能性はないかなど、取引対象の周辺の営農に悪影響がないかどうかが考慮されます。

③一時的な転用の場合、事業終了後に農地に戻されることが確実かどうか

以上のような点を考慮し、一般基準もクリアできれば許可を得ることができます。

農地売買にかかる流れ

ここでは農地売買にかかる流れを確認していきます。

一般の土地取引とは異なる動きに留意しましょう。

①買い手を探す

買い手探しは3条許可と5条許可で違いが出ることが多いです。

3条許可の場合は知り合いの農家に話を持ち掛けることが多いので、その場合は自分で買い手探しをすることになります。

5条許可の場合は農地を転用するので、買い手は宅地を探している人など客層に幅が出るため、不動産業者に仲介に入ってもらうこともあります。

不動産業者を入れる場合、農地の取引に明るいところを選ばないとうまく進まないことがあるので、実績をよく調べてから依頼しましょう。

②許可を得ることを条件にして売買契約を締結

農地売買では行政からの許可が下りなければ契約は無効になってしまいますが、行政側では取引の実体があることを前提に許可を下すかどうかの審査を行います。

そのため先に売買契約を先行させる必要があるので、取引当事者は条件付きでの売買契約を締結します。

つまり、「もし許可が取れなかったらこの契約は白紙になりますよ」という条件付きでの契約ということになります。

③許可申請手続き

多くの場合は市区町村の農業員会に農地売買の許可申請を行います。

申請に必要な書類は3条許可か5条許可かによって異なる他、ケースごとの事情に応じて必要物が変わります。

地元の農業員会のHPに必要書類が掲載されていますが、個別ケースで多様な資料を求められるので必ず電話等で確認するようにしてください。

また許可が出るまでには1か月程度の審査期間を要すので、この点も留意が必要です。

④仮登記

実際の許可が下りる前に、法務局で仮登記の申請をすることもできます。

必須の作業ではありませんが、農地売買以外でも許認可が必要な重要取引に際して仮登記が行われることが多いです。

仮登記には、許可が出て契約が有効になった際に間違いなく買い主に所有権を移転することを確約する意味があります。

⑤許可後の決済と本登記

無事許可が下りれば許可証が交付されます。

売買契約が有効になるので、約束通りに代金の支払いと収受を行い、法務局で本登記を行います。

まとめ

本章では農地を売買する際にかかる制限や取引を進める方法、手続きの流れなどを全体的に見てきました。

一般の宅地と違い、農地は基本的に国策として保護の対象にされるため、自由な取引は制限されてしまいます。

売買のためには行政の許可を得る必要があり、農地のまま売るか、土地を転用して売るかによって許可基準も変わってきます。

多くの場合、地元の農業委員会が窓口になりますから、売買取引が可能な農地に該当するのか、売買が可能であればどのような基準が適用されるかを確認しましょう。

許可申請の手続きが面倒であれば、地元で農地取引を扱う行政書士が相談相手として最適です。

別途報酬が発生しますが、時間がない人や手間を省きたい人は検討してみてください。

※記事の掲載内容は執筆当時のものです。