パタゴニアのウエアやビールが「地球を救う」その理由とは

引用:patagonia

「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む。」

アウトドアアパレル大手、パタゴニアが2018年末に企業理念を一新しました。

それまでの理念は「最高の商品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する。」でした。

パタゴニアは創業以来、環境保全を念頭にビジネスを取り組んできましたが、企業理念に「地球を救う」という文言が組み込まれ、環境に対してこれまで以上に真剣に取り組む”本気度”を伺えます。

パタゴニアが日本に上陸してから30年が経過しました。その間に、アパレル業界でのファストファッションの台頭をはじめ、先進国では地球が回復するよりも早いスピードで資源を消費しているのが現状です。

その中心にあるのが、効率や利益のみを追求するビジネスのあり方ではないでしょうか。パタゴニアは1973年の創業以来、そうしたビジネスモデルに問題を提示してきています。ここでは、パタゴニアが本気で実行する環境への取り組みをご紹介しましょう。

patagonia (パタゴニア)とは

引用:patagonia

パタゴニアの創業者であるイヴォン・シュイナードは14歳でロック・クライミングに出会いました。そして、1957年にはオリジナルのピトン(ハーケン:岩に打ち込んで、確保の支点や手がかりなどに用いる鋼鉄製の釘)を作るため、独学で鍛造を学び始めます。

オリジナルのピトンはクライミング仲間からも好評で、ピトン作りがビジネスになるまで、そう時間はかかりませんでした。そして、1970年に、パタゴニアの前身である「シュイナード・イクイップメント」の直営店をカリフォリア州ベンチュラにオープンします。その時すでに、シュイナード・イクイップメントはアメリカ最大級のクライミング・ギアメーカーに発展していました。

1973年には、利益の少ないクラミングギア・ビジネスを支えるため、衣料品の輸入と販売を開始し「パタゴニア」を創業しました。ちなみにパタゴニアとは、南アメリカ南部コロラド川以南の地域の総称のことです。パタゴニアは、はるかかなた、地図には載っていない遠隔地というイメージと、どの国の言語でも発音しやすい単語であるため、社名に採用されました。

パタゴニアの最初の事業は、ラグビーシャツをクライミング用ウエアとして輸入することでした。当時、クライミング専用の優れたウエアはまだ存在しておらず、ラグビーシャツはクライミング用途にも適していたからです。

現在では、ビジネスメディア「Fast company」による2018年「世界で最も革新的な企業ランキングトップ50」の第6位にランクインするなど、一流アパレルブランドへと成長しました。

パタゴニアの環境への具体的な取り組みと製品

下記の製品は、リサイクル素材やオーガニックコットンから生産されたものです。

P-6ロゴオーガニックTシャツ
素材:4オンス・オーガニックコットン・リングスパン・ジャージー100%。フェアトレード・サーティファイドの縫製を採用
いらないアウトドア用品を売るならマウンテンシティ!
メンズ・トレントシェル・ジャケット
素材:H2Noパフォーマンス・スタンダード・シェル:防水性/透湿性バリヤーを施した、2.5層構造の2.7オンス・50デニール・リップストップ・リサイクル・ナイロン100%
いらないアウトドア用品を売るならマウンテンシティ!
メンズ・R2・ジャケット
素材:本体:6.1オンス・ポーラテック・サーマル・プロ・ポリエステル97%(リサイクル・ポリエステル63%)
いらないアウトドア用品を売るならマウンテンシティ!

これらは、経営理念にある「地球を救うためのビジネス」を具現化したものです。冒頭で述べたように、パタゴニアは創業以来、環境へ配慮したビジネスを取り組んできましたが、これらの製品はどのようなプロセスを経て誕生したのでしょうか。これまでの取り組みをご紹介します。

ピトンからチョックへ

引用:Amazon

1970年代、すでに、パタゴニアは環境への配慮を念頭にビジネスを展開していました。

シュイナード・イクイップメント時代、当時の主な収益源は、クライミングにの支点金具に用いるピトンの製造でした。ピトンはクライミングには絶対に欠かせない道具でしたが、大きな欠点があります。

ピトンは岩にハンマーで打ち込んで使うため、自然の岩を割り、傷つけてしまうのです。イヴォン・シュイナードは、傷つけられた岩の無残な姿を目の当たりにし、ピトンの製造から段階的に手を引くことを決断しました。

引用:Amazon

そして、1972年にピトンにかわる道具として「アルミ製チョック」を開発します。チョックはピトンのように岩に打ち込む必要はなく、岩の隙間に手で抜き差しできるため、岩場にクライミングの痕跡がほとんど残りません。岩を傷つけない「クリーン・クライミング」を提唱し、ピトンの注文はみるみるうちに減少し、チョックは製造が追いつかないほどのスピードで売れたのです。

コットン製スポーツウエアを、100%オーガニックコットンへと切り替えた

引用:日本オーガニックコットン協会

1994年には「1996年までにコットン製品を100%オーガニックコットンへ切り替えること」を決断し、発表しました。オーガニックコットン製品とは、無農薬、有機栽培で生産された綿花を使い、製造段階でも化学薬品を極力使用せずに生産された製品のことです。

従来型の綿花生産は、環境や、生産に携わる人々の健康への負担が大きく、オーガニックコットンを採用することで、農場ではたらく人々の健康は守られ、環境汚染の軽減にもつながると考えたのです。

余談ですが、2015年のパリ協定では、21世紀後半までに温室効果ガスの排出と森林による吸収のバランスをとることが定められましたが、アパレル産業においては二酸化炭素の排出量は増加の一途をたどっています。

アメリカの綿花栽培における二酸化炭素の排出量

綿花栽培における二酸化炭素の排出量の1例をご紹介しましょう。

  • 従来型綿花=1haあたり1172kg-CO2
  • オーガニックコットン=1haあたり646kg-CO2

従来型綿花生産では、主に、農業機械による燃料消費と化学肥料の寄与が二酸化炭素排出量を大きくしています。オーガニックコットンでは、有機肥料を用い、除草は主に手作業で行い、収穫は手摘みです。そのため、従来型綿花にくらべ、45%の二酸化炭素排出量を削減でき、同時に製造工程における二酸化炭素排出量も削減できるのです。

製品にオーガニックコットンを採用することで、二酸化炭素の排出量を大幅に削減でき、環境への負荷の軽減が期待できます。

参考:第4回日本LCA学会研究発表会講演要旨集(2009 年3月)

DON’T BUY THIS JACKET

引用:patagonia

2011年11月25日、ブラックフライデー(アメリカ合衆国の11月第4木曜日の感謝祭の翌日の金曜日)のニューヨークタイムスに「DON’T BUY THIS JACKET(このジャケットを買わないで)」という自社製品の広告を出稿しました。

パタゴニアでは、消費を続ける限り環境への負担は増える一方で、環境への悪影響を削減するには、消費そのものを減らす努力が必要と考えているからです。「その購買は本当に必要なものか?」という視点を、消費者にもってほしいとう思いがこめられていました。

「Worn Wear(着ることについてのストーリー)」ーー新品よりもずっといい

引用:patagonia

数年前に、パタゴニア製品の修理方法とリサイクル方法を提供するプログラム「Worn Wear」をスタートしました。パタゴニアでは、「地球環境に献身的なパタゴニアでさえ、返済できる以上のものを地球から奪ってしまっている」とし、「DON’T BUY THIS JACKET(このジャケットを買わないで)」と同様、地球環境のためには消費を抑える必要があるとの考えから始まったプログラムです。

その一環で、さまざまな製品の修理マニュアルを発信している、カリフォルニア州のiFixit(アイフィックスイット)と提携し、パタゴニアの公式ホームページにパタゴニア製品のお手入れと修理ガイドが紹介されています。

もし、ご自身での修理やメンテナンスが難しい場合はパタゴニア直営店に持ち込むか、リペアサービスに送付しましょう。修理内容により無償、または有償の修理サービスを受けられます。製品寿命をまっとうした製品は、パタゴニア直営店に設置した回収ボックスにて、またはパタゴニアDCセンターへ送付することでリサイクルが可能です。修理やリサイクルなどの詳しい情報は、パタゴニアの公式ホームページをご確認ください。

リペア車「つぎはぎ」による試み

2019年の5月31日から7月12日まで、パタゴニアのリペアトラック「つぎはぎ」が全国11の大学を回るプログラム「Worn Wear College Tour」が開催されています。

このプログラムでは、ウエアのブランドは問わず無料の修理サービスを提供することで、未来を担う学生と「責任ある消費」とは何かを共に考えるために開催されます。これからの社会を創っていく若い世代に、リサイクルやリユースの文化に目を向けてもらうことが一番の目的でしょう。残念ながら一般の人や他大学の人は参加できませんが、もちろん、環境問題は学生のみならず全ての人が関心をもつべき急務であることは言うまでもありません。

食品事業にも参入

パタゴニアはアパレル分野のみならず、食品事業にも参入しています。2011年に立ち上がったパタゴニアの食品事業「プロビジョンズ」は、2016年に日本に上陸しました。商品には、「オーガニックスープ」や環境を破壊しない漁法で捕獲した「スモークサーモン」、EUオーガニック水産養殖承認の「ルーム貝の缶詰」などがラインアップされています。それらはパタゴニア公式オンラインショップ、またはパタゴニア直営店で販売されています。

パタゴニアのビール

引用:patagonia

そもそも、アパレルブランドのパタゴニアがなぜ食品事業に参入したのでしょうか。

パタゴニアは、プロビジョンズの最大の使命を「ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行すること」としています。食品は誰にとっても大切でなじみのあるものです。食品を通じて、環境問題に目をむけてほしい、という思いが込められているのです。また、アパレル産業と同じく食品産業が環境に与える悪影響も深刻で、農業が環境危機の解決策の一つとなりうると考えているからです。

農業での環境問題解決策の一つとして、2017年、多年生穀物「カーンザ」から世界で初めて誕生したクラフトビールが「ロング・ルート・ペールエール」です。続いて2019年には「ロング・ルート・ウィット」が誕生しました。商品名の「ロング・ルート」とは、カーンザの長い根のことを指しますが、カーンザとはどのような穀物なのでしょうか。

多年生穀物「カーンザ」

引用:patagonia

カーンザとは、小麦と多年草を組み合わせた、多年生の穀物のことです。

世界の農地の約7割は、主食である穀物を生産していますが、そのほとんどが一年生の穀物です。そのため、1年ごとに耕耘(こううん)と種まきが必要であり、大量の二酸化炭素を排出し、肥料と水を必要とします。一年生の植物は成長のたびに土壌の栄養を吸収し、それを繰り返すことで土壌の力が失われていきます。

あまり知られていませんが、”土”は石油と同等以上に、大切で限りのある資源なのです。

多年生のカーンザは複数年にわたり生存するため、毎年の耕耘や水を必要としません。地面に長く根を張り、根から光合成により炭素を土壌に還元し、土壌を再生します。

カーンザは、自然のサイクルを修復できる穀物なのです。

個人が環境問題について真剣に取り組むべき時代

以上のように、パタゴニアは創業以来、常に環境への配慮を念頭にビジネスを展開してきました。ここで紹介した例はほんの一部にすぎません。すべては、ビジネスを手段として、一人でも多くの人に環境問題へ目を向けてもらうためです。

近年では、海洋プラスティック汚染問題が取りざたされ、それに伴うレジ袋の有料義務化の話が浮上しています。国内では「ユニクロ」や「ジーユー」を運営するファーストリテーリングが、2019年9月1日からプラスチック製のレジ袋を紙製に順次切り替え、2020年1月14日から有料化すると発表しました。

気候変動においては、日本は世界より早いペースで気温が上昇しています。環境問題は決して対岸の火事ではありません。国や企業が取り組むだけではなく、個人が環境問題について真剣に取り組むべき時代が、目の前に迫っているのかもしれません。

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