登山時計といえばGPS時計が注目される現在。そんな中、GPS非搭載のシンプルな登山時計の魅力も捨てがたいものです。
方位計、気圧計、高度計など環境を瞬時に計測できる機能を備え、苛烈な環境にも耐えるタフさは、アウトドア愛好家の心強い味方になることでしょう。
ただし、シンプルな操作性ながら使いこなしにはコツがいります。どのように使えばアウトドアで役立つでしょうか。
ここでは、カシオ・プロトレックを愛用する筆者が、登山時計の使い方を詳しく解説します。この記事を読めば、登山時計の魅力や基本の使い方を会得できるでしょう。登山時計の定番モデルも紹介していますので、登山時計選びの参考にしてください。
登山時計は何ができるのか
今や時間を知るだけならスマートフォンで事足ります。それでも登山時計を使う理由は、次のような機能を備えているからです。
- 高度計(Altimeter)
- 気圧/温度計(Barometer)
- 方位計(Compass)
登山時計は、それぞれの頭文字をとってABC時計とも呼ばれます。これらの機能を詳しく見ていきましょう。
高度計:気圧データを元に高度が分かる
高度計が搭載され、気圧をもとに現在地の高度を計測できます。
ICAO(国際民間航空機関)の定める「国際標準大気」は、海面上(標高0m)の気圧を1013.25hPaとしています。ここから高度が上がるにつれて、法則に従い気圧が低下し、この法則から現在地の高度を導き出すのです。
高度計は登山中に最も活用する機能のため、次項で詳しくご説明しましょう。
気圧センサーを搭載し、気圧が分かる
気圧計では、現在地の気圧や急激な気圧変化を計測でき、天候の予測に役立ちます。
例えば、標高に変化がないのに気圧が下降していれば、低気圧の接近により天候が崩れる可能性があります。逆に気圧が上昇していけば、天候の回復を見込めるでしょう。急激な気圧変化が発生すると、アラームで知らせてくれるモデルもあります。
天候は単純な気圧変化のみで予測できるとは限りませんが、それでも天候の変わりやすい山中において、大まかにでも天気の傾向を知れるのは心強いものです。スマートフォンで予報を調べようにも、電波が届かないこともままあるでしょう。そして、天気予報は基本的に都市部のものです。
天候を予測することにより、下山のタイミングや安全なルート設定に役立つのです。
温度計で外気温が分かる
現在地の気温が分かることで、目的地の気温を予測できます。
気温は、標高が100m上昇するごとに0.6度下がるとされ、1000m上昇すると6度下がる計算です。この法則により目的地の気温を予測できれば、それに見合った防寒対策を施せるでしょう。これは高度と気温を同時に計測できるからこそ可能なことです。
ただし、気温の計測にはひと手間かかります。登山時計を腕に装着したままだと体温の影響を受けるため、腕から外し、直射日光の当たらない場所に15分ほど放置しなければなりません。この点だけ注意してください。
電子コンパスを搭載し、方位が分かる
電子コンパスを搭載し、方位を計測できます。コンパスは言うまでもなく地図読みとナビゲーションに使い、具体的には、紙地図を整置(正置)して現在地と進行方向を確認します。
コンパスを使って地図を整置しよう
これから説明することは、登山時計のコンパスに限らず通常のコンパスでも手順は同じですので、ぜひ実践してみてください。
- 地図の北(正確には磁北・磁北線)と、コンパスが指す北(磁北)を並行に合わせる
整置とは、地図の北と、コンパスが指す北を並行に合わせることです。整置することにより、カーナビのように地図の方向と実際の風景の方向が一致します。分岐や休憩地点のたびに整置することで、現在地と進行方向を確認すれば、道迷いを防げるでしょう。
地図の使い方はこちらの記事も参考に
その他の機能:自分にとって必要な機能を見極めよう
登山時計の基本機能は以上ですが、それ以外にも、モデルにより数々の機能が備えられています。
- 日の出・日の入り時刻
- ムーンデータ:月の満ち欠けの計測
- フィッシングタイム:釣りに適した時間の計測
- タイドグラフ:潮の満ち引きを計測
- 水深計
日の出・日の入り時刻が分かれば、行動計画の立案に役立ちます。釣りを楽しむ人なら、”マズメ時”の予測に生かせるでしょう。その他、ムーンデータやフィッシングタイムは、山、海、川と、マルチに楽しむ人におすすめの機能です。
ただ、機能を満載してるモデルが最適、というわけではありません。機能が増えるにつれ、大きく重く、そして高価になるのが道具の常です。自分に必要な機能を見極め、より良いモデルを選びましょう。
登山時計の使いこなしのキモは、こまめな高度補正にある
高度計は登山時計の中で最も使う機能だと述べました。登山時計の使い方=高度計の使い方と言っても過言ではないでしょう。
高度計は前述の通り、気圧の変化を元に高度を導き出します。ということは、高度計の数値は、あくまで気圧からの推測値にすぎません。
低気圧や高気圧の接近により気圧は刻々と変化し、高度計も影響を受けます。そのため、自宅や登山口で高度計をセットしただけでは、正しい高度を計測できるとは限らないのです。
では、どうすれば正確な高度を計測できるでしょうか。
その答えは、三角点、山小屋、分岐など、標高が確実に分かる場所で、その都度高度計を補正することです。そうすれば、最新モデルでは1秒間隔、1m単位の高精度で高度を計測できるのです。そして、高度が分かれば登山ペースの確認や現在地の絞り込みに役立ちます。
高度計は現在地把握やペースの確認に使う
例えば、地形的特徴や目標物の乏しい尾根を歩いているとしましょう。あとどれぐらい登るのか(あるいは下るのか)知りたくても、その場所に特徴がないため、地図とコンパスだけで現在地を特定するのは困難です。
このような場面で現在地の高度が分かれば、地図と照らし合わせて現在地を絞り込めます。
また、休憩ポイントごとに高度を確認しておけば、1時間でどのぐらいの標高差を登れるのか、登山ペースの確認にも役立つことでしょう。辛い登りでは、登山口から積み上げた高度計の数字に励まされます。
このように、高度計は登山において欠かせない道具のひとつなのです。
登山時計がGPS時計に勝る圧倒的アドバンテージ
登山時計がGPS時計より圧倒的に優れる点が、バッテリー寿命の長さです。
GPS時計の場合、長時間駆動モデルでも使用時間は48時間程度しかありません。(GPS使用時)
一方、登山時計は電池式モデルで約1年(モデルによる)、ソーラー充電モデルは充電や電池交換の必要がありません。GPS時計に比べて、電池切れに陥る可能性が極めて低いのです。
電池式かソーラー充電式か、どちらを選ぶかは好みが分かれるところです。どちらも一長一短がありますので、特徴を確認しておきましょう。
ソーラー充電式か電池式か
ソーラー充電式は通常、電池が切れる心配はありません。カシオ・プロトレックの場合、蛍光灯の光でさえ発電できる、強力なソーラーパネルを搭載しています。
しかし、発電した電気を蓄えるための二次電池には寿命があり、使用中に時計が止まる可能性がゼロではありません。もし二次電池が切れた場合は、サービスセンターでの修理が必要です。
電池式の場合は電池交換が必要ですが、予備電池や交換用防水パッキンなどを手元に用意しておけば、簡単に電池交換が可能です。ソーラー充電式のほうが手軽に使えますが、より過酷な環境に身を置く人からは、電池交換式に根強い人気があります。
どちらが優れている、ということはありません。使用用途に応じて、好みのモデルを選びましょう。
登山時計の人気定番モデル6選
最後に、登山時計の定番モデルをご紹介します。
カシオ PRO TREK:PRW-3510-1JF
重量:94g
ケース・ベゼル材質: 樹脂/ステンレススチール
20気圧防水
タフソーラー(ソーラー充電システム)
さまざまなフィールドで活躍するマルチフィールドモデルです。防水性能は20気圧を確保し、プロトレックシリーズ中、最高の防水性能を誇ります。登山はもちろん、沢登りやラフティング、シーカヤックや釣りなど、水上のスポーツにも対応する万能モデルと言えるでしょう。
カシオ PRO TREK:PRW-50Y-1AJF
重量:70g
ケース・ベゼル材質: 樹脂/ステンレススチール
10気圧防水
タフソーラー(ソーラー充電システム)
登山時計といば大型で男性用の腕時計、というイメージが先行します。しかし、こちらのモデルは構造を工夫することで、大幅な小型を実現したモデルです。小柄な女性でも違和感なく着用できるでしょう。小型なボディーながらトリプルセンサーやその他の機能を凝縮し、アウトドアから街中まで、幅広い用途で活躍するモデルです。
カシオ PRO TREK:PRW-7000-1AJF
重量:95g
ケース・ベゼル材質: 樹脂/ステンレススチール
20気圧防水
タフソーラー(ソーラー充電システム)
20気圧防水と最新のトリプルセンサー Ver.3を搭載した上位機種です。基本機能以外にタイドグラフ/ ムーンデータ、フィッシングタイムなどを搭載し、カヤックや釣りにも対応します。耐久性と軽量化も実現させ、海・川からアルプスまで活躍する、本当の意味でのマルチユースモデルと言えるでしょう。
SUUNTO:CORE All Black
登山時計の代名詞と称される、スントの代表的モデルです。最大の特徴は電池式であること。1度の電池交換で1年間使用でき、電池交換は簡単にできます。高度な機能を備えつつ、素材や外観のバリエーションも豊富ですので、好みのモデルを選びやすいことも特徴です。
詳しくはこちらの記事を参考に
SEIKOプロスペックス:SBEB003
重量:52g
ケース素材:プラスチック ベゼル:アルミ
日常生活用強化防水(10気圧)
ソーラー充電式
登山家であり、プロスキーヤーでもある三浦豪太氏の監修により開発されたモデルです。「安全に登山を楽しむ」ことをコンセプトに、高度計、気圧/温度計、方位計などを、扱いやすい操作性を確保しながら搭載しました。小型・軽量かつ安価なモデルです。初心者や女性におすすめのモデルと言えるでしょう。
CITIZEN PROMASTER:BN4046-10X
プロマスターは、過酷な環境に挑戦する冒険家のために開発されたシリーズです。こちらのモデルは全ての情報をアナログ表示することで、表示モードを変更することなく、高度と方位を確認できます。高度計は、地球上のあらゆる山を上回る10000mまで計測可能。どちらかといえば、登山時計を使いこなせるベテラン向けのモデルです。
まとめ
登山時計を使いこなせば、環境を瞬時に計測できます。地図を使ったナビゲーション、気圧変化を元に天候の予測など、さまざまな機能が搭載されています。中でも大切なのが高度計。高度計を使いこなせば、登山時計を使う恩恵を、十分に享受できることでしょう。
ここでご紹介したように、登山時計の使い方は決して難しくありません。この記事を参考に、ぜひ登山時計を実践で使ってみてください。