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トレイルランニングの競技人口のうち、6割を超える人がロードランニングから参入します。トレイルランニングはロードランニングと違い、山中を走るための専用の装備が欠かせません。これからトレイルランニングを始めたい人にとって、どのような装備をそろえるべきかは、最大の悩みではないでしょうか。
そこで、トレイルランニングの主要装備「トレランシューズ」「ランニングザック」「レインウエア」は< トレラン初心者必見!日頃のトレーニングから中距離レースまで対応できるノースフェイスの厳選アイテム12選 >でご紹介しました。しかし、トレイルランニングを安全に楽しむには、他にも装備が必要です。
ここでは、主要装備以外に必要な、その他の装備についてご紹介しましょう。
トレイルランニングに必要な装備
山中を走るトレイルラン二ングには、いくつかの専用の装備が必要です。山岳スポーツという点で、使用する装備は違えど、登山やハイキングの装備と考え方はかわりません。トレイルランニングの主要装備は「トレランシューズ」「ランニングザック」「レインウエア」の3点ですが、これら以外にも必要な装備があります。
- スマートフォンとモバイルバッテリー
- 地図とコンパス
- ファーストエイドキット
- ヘッドランプと予備電池
- 水と行動食
- エマージェンシーブランケット
いずれもトレイルランニングを安全に楽しむために欠かせない装備です。次項から詳しくご紹介しましょう。
スマートフォンとモバイルバッテリー
今やスマートフォンは、トレイルランニングのみならず山岳スポーツの必需品となりました。
警察庁の発表によると、平成30年度の山岳遭難者数は全国で3,129人と、過去最多を記録しました。そのうち、77.8%の人が携帯電話(スマートフォン)を使用しており、負傷者、無事救出者合わせて、2,787人の人が救出されています。
近年は携帯電話の使用可能エリアは広がっており、山中でも電波がつながる場所がふえてきました。警察庁の統計は、万が一の通信手段として、携帯電話やスマートフォンが重要であることを、改めて認識できるものです。
たとえ身近な里山でのトレイルランニングであっても、満充電されたスマートフォンと、モバイルバッテリーは携帯しておきましょう。
山中では機内モードに設定しよう
スマートフォンは通常モードだと、通信電波を探すために、使用していなくてもバッテリーを消費します。少しでもバッテリーを温存するために、山中では機内モードに設定しておきましょう。
ちなみに、機内モードに設定していてもGPSは使えます。つまり、登山地図アプリは使えますので安心してください。
また、スマートフォンをアウトドアで使用するにあたり、防水機能や耐衝撃性能を備えた機種を選ぶのがおすすめです。もしくは、防水ケースやストラップなどを活用し、水没や落下対策を万全に備えておくと安心でしょう。
地図とコンパス
警察庁の発表に補足すると、遭難原因別の統計では「道迷い遭難」の割合が37.9%で最も高い割合でした。スマートフォンの普及で、地図読みや現在地確認は、格段に容易になったにもかかわらずです。
道迷い遭難は、ルートの逸脱や現在地の見失い、道標の読み間違いなど、さまざまな要因から起こりえます。トレイルランニングの場合、主なフィールドは日本アルプスのような高く険しい山より、標高2000m未満の低山がメインになるでしょう。
ルートが限られている高山に対し、低山には登山道以外にも作業用の小径やけもの道が走っており、分岐の数が多いのが特徴です。地図に記載されていない分岐が現れることもあり、それだけに迷いやすい。
道迷い遭難を防ぐためには、スマートフォンには登山地図アプリをインストールし、バックアップに地図とコンパスを携帯し、それらを使えることが重要です。
Q.紙地図とコンパスは必要か?
近年では、スマートフォンのGPS精度がGPS専用機と遜色がないほど向上しています。しかも、登山地図アプリでは高精彩な地形図を確認できます。
「それなら、スマホに登山地図アプリをいれておけば、紙地図はいらないんじゃないか?」と思われるかもしれません。
しかし、スマートフォンは万能ではないのです。
A.スマートフォンは故障や充電切れなどのトラブルを100% 防げない
紙地図を携帯すべき理由の一つは「故障や充電切れなどのトラブルを100% 防げないから」です。モバイルバッテリーを携帯していても、充電ケーブルを忘れるかもしれません。もし、スマートフォンが使えなくなった時に、ルートが全く分からなくなるのは危険です。
A.地図アプリを使っていても読図は必要
まず、GPSを使うといっても読図の知識は必要です。GPSは単に現在地が分かるだけで、どこをどう進むのか、先の道がどういう勾配なのかなどは読図をしなければわかりません。引用:ジオグラフィカ 登山におけるスマホGPSの誤解
上の引用文は、登山地図アプリ「ジオグラフィカ」の製作者、松本圭司氏の言葉です。スマートフォンに表示される地図を読むには、読図力が必要なのです。
読図力を身につけるには、実際に地図を使うことが必要です。リスクヘッジもかねて、地図とコンパスの基本的な使い方をマスターしておきましょう。
トレイルランニングに使う地図には、大きく分けて登山地図と地形図の2種類があります。
登山地図
登山地図の代表は「山と高原地図(昭文社)」です。山と高原地図には、コースタイムや水場、トイレの場所、危険箇所の警告や、下山後の銭湯の場所など、登山者に必要であろう情報を網羅しているのが特徴です。縮尺は1/50000が主流で、山域全体を俯瞰できるのもポイントでしょう。トレイルランニングの計画に使いたい地図です。
ただし、登山地図は人気のある山域しか発行されていません。また、縮尺が小さく、実際のフィールドでナビゲーションに使うには適しません。そこで、国土地理院が発行している地形図の登場です。
地形図
地形図は全国を網羅しており、縮尺が1/25000と登山地図に比べて大きく、細かな地形や登山道の読み取りに適しています。そのため、トレイルランニングの現場でルートを確認するには、地形図が適しています。
地形図の入手方法は、大型書店や登山用品で購入するほか、WEB地図から印刷する方法があり、現在は後者が主流です。ためしに、 国土地理院 地理院地図 を開いてみてください。表示された地図を印刷すれば、そのままトレイルランニングに使えます。
コンパス
地図とコンパスはセットで使いますので、基本的な使い方はマスターしておきましょう。コンパスにはいろいろな種類がありますが、初めてコンパスを選ぶならこちらの商品がおすすめです。
どちらも小型で安価ながら、読図に必要な機能を十分に備えたコンパスです。ちなみに「高価なコンパスのほうが、より正確に北を指す」なんてことはありません。トレイルランニング用途ならこれで十分です。
地図アプリ
地図とコンパスが必携とはいえ、使いこなすには学習と経験が必要です。ですので、まずはスマートフォンの登山地図アプリから使ってみましょう。登山地図アプリは、「グーグルマップ」やiOSの「マップ」アプリと、使い勝手はそう変わりません。
おすすめのアプリは「山と高原地図アプリ」と「ジオグラフィカ」の2つです。「山と高原地図アプリ」は、登山地図をスマートフォンに有料ダウロードし、使用するものです。ジオグラフィカは、国土地理院の地形図を無料で使えるアプリです。詳しくは、それぞれの公式サイトをご確認ください。
ファーストエイドキット
トレイルランニングに限らず、アウトドアアクティビティーに小さな怪我はつきものです。もし怪我をした場合、すぐに手当てができるよう応急手当の道具は必携です。
本来使いたくないものを装備に加えるのは、非常に悩ましい作業です。何をどれくらい持っていくべきでしょうか。以下のリストを参考に、ファーストエイドキットを組んでみてください。
- ポイズンリムーバー
- テーピング
- 医療用手袋
- 湿潤治療用防水フィルム
- ガーゼ付き絆創膏
- ファーストエイドキット専用ポーチ
筆者の場合、最も使用頻度の高いのがテーピングテープです。靴擦れの予防に使ったり、軽い捻挫などの応急手当てに使ったりと重宝しています。
虫の活動が活発になる時期には、毒虫に刺された時に毒を吸引するポインズンリムバーが欠かせません。幸いまだ一度も使用したことはありませんが、春〜秋にかけての必携装備です。
その他、感染症を防ぐために手袋(食品用の衛星手袋で代用)を用意し、転倒などによる擦り傷には、湿潤治療用の防水フィルムを用意しています。
それらの装備を、ファーストエイドキット専用ポーチに収納しています。そうすれば、ひと目で中身がそれとわかり、緊急時にザックの中身を探し回ることがありません。
また、ここに挙げたキットの中身は一例に過ぎません。ルートの難易度や山域によってリスクを想定し、各自が必要だと考える装備を用意しましょう。
ヘッドランプと予備電池
山中では予期せぬトラブルが起こりう得ます。そして、山岳遭難の発生原因として「日没を向かえて行動ができなくなる」ことも要因の一つです。
経験のあなる人なら分かると思いますが、夜の山中は真っ暗闇で、方向感覚を失いそうになります。そして、まず何よりも怖い。木々に覆われた山中は、日の入り予定時刻より暗くなるのが早いものです。怪我や天候不順など、下山が遅れた時の備えとして、ヘッドランプと予備電池を携帯しておきましょう。
ヘッドランプを選ぶ時に、明るさを表す単位「ルーメン」があります。トレイルランニング用には、走るスピードでも不安なく山中を照らせるように、200ルーメン以上のヘッドランプをおすすめします。
水分と行動食
トレイルランニングの計画を立てたら、コース上の補給箇所を確認しておきましょう。もし途中で補給ができなければ、運動量に見合った量の、水分と食料を背負うことになります。
山岳スポーツは想像以上にエネルギーを消費し、行動中にエネルギーが枯渇すると「ハンガーノック」に陥ります。つまり、バテて動けなくなるのです。そうならないために、十分な水分と行動食を用意しておきましょう。
では、どのぐらいの量が必要になるのでしょうか。鹿屋体育大学の山本教授が提唱する公式を目安に計算してみください。
- エネルギー消費量(kcal)=体重(kg)×行動時間(h)×5
- 脱水量(ml)=体重(kg)×行動時間(h)×5
- 参考: 鹿屋体育大学 山本正嘉教授 登山の運動生理とトレーニング
例えば、体重60kgの人が山中で5時間行動するとしましょう。
60kg×5時間×5=1500kcalを消費し、1500mlの水分を消費する計算です。ただし、上の公式はあくまで登山中にマイペースで歩いた場合の消費目安です。トレイルランニングの場合、より多くのカロリーや水分を消費することは想像に難くありません。そして、気候や個人差もあります。自身の消費量をよく考え、十分な水分と行動食を用意しましょう。
おすすめの行動食
トレイルランニングに使う行動食は、スポーツジェル、ゼリー、エナジーバーなどが人気です。いずれも、摂取してからエネルギーに変換されるまでのスピードが早く、素早いエネルギー補給が可能です。
ただし、実際に練習やレースで使用する前に、試食することを強くおすすめします。特に、スポーツジェルは総じて味が濃いめで「濃厚な味付で、まったく胃が受け付けない」という人もいます。相性の合わないジェルを飲んで、パフォーマンスが落ちてしまったら本末転倒です。
また、いくらカロリーを摂取しても、空腹になると力を発揮できないこともあります。そのため、ジェル類と一緒に、おにぎりやサンドイッチなどの固形物も用意しておくといいでしょう。
エマージェンシーブランケット(サバイバルシート)
エマージェンシーブランケットとは、山中で身動きが取れなくなった場合に、寒さや風雨から体を守るためのシートのことです。
アルミを蒸着した薄手のシートで、例えば、SOLのエマージェンシーブランケットなら、体から放射する体温の90%を保持でます。シートをかぶることで、低体温症におちいるのを防ぎます。
使わない時は薄くたため、重量も軽くかさばらないので、緊急時用にザックに忍ばせておきましょう。
リスクを想定して安全にトレイルランニングを楽しもう
山中を駆け抜ける爽快感が魅力のトレイルランニングですが、自然には危険が潜んでいることを忘れてはいけません。予期せぬトラブルが起こりうるものとして、装備は万全に整えましょう。
しかし、だからと言って必要以上に怖がることはありません。ほんの少しの恐怖心を頭において、準備を整えたら思いっきりトレイルランニングを楽しんでください。この記事が、少しでも多くのランナーのお役に立てましたら幸いです。